[概要]
化粧品材料に使用されるゲル状物質は手のひらに乗せる事も可能な粘性を有していますが、僅かな力を加えると液状になります。
TD-NMR Spectrometer Spin Trackを用いて、緩和時間T2(CPMG法)を測定しました。
レオメーター(MCR302 Anton-Paar社製)を用いて粘度のせん断速度依存性測定を行いました。
得られた緩和時間から極端に粘性が下がるメカニズムを考察しました。
比較対象としてグリセリン(富士フイルム和光純薬(株)製 一級、97.0%)の測定も行いました。
下記はゲルとグリセリンをスパチュラでかき混ぜた様子です。
ゲルはスパチュラでかき混ぜるようなせん断では塊のようなが物質が生じている様子が判ります。
グリセリンには見られません。
[実験]
★TD-NMR
ゲルおよびグリセリンを10mmφのガラス試料管に分取し、30℃にて緩和時間の測定を行いました。
★レオメーター
ゲルおよびグリセリンをシリンジを用いて1ml、レオメーターのテーブルに乗せ測定を行いました。
せん断速度は0.0001~2000(1/s)です。
[結果]
得られた緩和時間を表に示します。
ゲルの緩和時間は極端に異なる2成分にて得られ、約12%の短成分と約88%の長成分からなることがわかりました。
長成分は水の緩和時間に近い値が得られました。
ゲルとグリセリンの緩和時間のグラフを示します。
明らかに緩和時間が異なる事が判ります。
実際の緩和カーブ
レオメーターによるせん断粘度測定結果を示します。
低せん断域ではゲルのほうが粘性が高く、50(1/s)以上のせん断を加える事で極端な粘度の低下が見られました。
その後、500(1/s)以降では約1mP-sになり水とほぼ同一の粘度を有していました。
グリセリンは4mP-sでありせん断速度依存性は見られませんでした。
[考察]
低せん断域で手に乗せる事が出来るほどの粘度を有している理由は、12%ほど存在した短成分の存在によるものと考えられます。
短成分はネットワーク構造の存在を示しているでしょう。
せん断による極端な粘度の低下はせん断によるネットワーク構造の破壊と考えられます。
ネットワーク構造を有したまま水同様の運動性を保持する事が可能な本物質は液体にハンドリングし易い性質を持たせかつ、少しの力により液体の特性も生じさせることが出来るでしょう。
→TD-NMRによる緩和時間測定により、せん断により極端に粘度が変化するゲルのメカニズムを数値化できたと考えます。